【解説】 お城とまちづくり

ニュース解説 ジャーナリスト 毛利和雄
1948年生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業。NHK入局後、奈良、大阪局を経て、歴史遺産、景観、まちづくりを担当のNHK解説委員をつとめた。NHK退局後、鞆の浦に在住。これまでの経験を活かし、歴史や文化資産を活かしたまちづくりについて広く伝えている。ラジオ出演や講演活動も多い。


※6月20日(月)放送の内容をWeb用に再構成したものです。

熊本地震で熊本城が大きな被害を受け、いち早い復興が望まれています。お城をもとにできあがった城下町ではお城はそのまちのシンボルともいえ、お城の整備のあり方をめぐって各地でさまざまな議論を呼んでいます。きょうは、ジャーナリストの毛利和雄さんにお城とまちづくりについてお話を聞きます。

熊本城の地震による被害はたびたび報道されていますが、本当にひどい状況です

 熊本城は、ご存知のように城作りの名人加藤清正によって作られ、熊本市民、県民のシンボルといえるだけに、その被害のひどさが目を引きます。
私は残念ながら現地を訪ねて被害を確認できていないので、日々報道されたところをまとめてみます。まず被害です。熊本城では、天守閣の屋根瓦が崩れた上に屋上にあったしゃちほこが落下し、石垣が少なくとも6か所で崩れ、塀が100mに渡って倒壊しました。さらに16日の本震で、築城当初から残っていた重要文化財の東十八間櫓・北十八間櫓が倒壊し、隣の熊本大神宮の社務所を押し潰しました。4月22日に平成28年熊本地震以降、立入規制しております区域に文化庁の調査団が入りました。「飯田丸五階櫓」は、熊本城の本丸の南西に平成17年に復元されましたが、下の石垣が地震で大きく崩れ、崩れなかった石垣の角の石だけでかろうじて支えられています。
熊本市は今月7日から、崩れた石の撤去など城の復旧に向けた準備を本格的に始めていて、「飯田丸五階櫓」についても余震などで倒壊する危険性が極めて高いとして、倒壊を防ぐ工事を始めました。熊本市によりますと、工事は建物の下に鉄骨を差し込んで一時的に支えたあと、足場を組んで安定させるということで、この作業が終わりしだい、建物の損傷を調べ、修復するか取り壊すか決めるということです。地震で壊れた熊本城の建物で、工事が行われるのはこれが初めてで、熊本市はほかの建物についても被害状況を早めに調べ、必要な工事に取りかかることにしています。

一連の地震で大きな被害を受けた熊本城について、熊本市は復旧にかかる費用が354億円に上るとする試算をまとめました。 熊本市の大西一史市長は10日に開かれた市議会で、熊本城の復旧にかかる費用の試算を明らかにしました。熊本城ではおよそ50か所で石垣の崩落が確認されるなど、石垣全体の3割に当たる2万3600平方メートルで積み直しが必要とされていて、熊本市が試算した結果、復旧にかかる費用は354億円に上るとしています。そのうえで大西市長は、熊本城の復旧には長い期間や高い専門技術が必要だとして、そのうえで大西市長は、熊本城の復旧には長い期間や高い専門技術が必要だとして、石垣や城にあった文化財、それに建造物などの修復を国の直轄事業とすることや、崩れた石の移動なども国から財政的な支援を受けられるよう要望していることを説明しました。
大西市長は記者会見で、重要文化財に指定されている建物は時間をかけて修復する必要があるとした一方で、天守閣など戦後復元された建物は、早く修復できる可能性があるいう認識を示し、学識経験者や市民の意見などを踏まえて優先順位を検討したいとする考えを示しました。

復興には、いつ頃までかかるのでしょうか?

10年以上かかるという見方も出ています。文化財の復旧、復興は、いくつかの原則があります。一番目に本物でなければいけない。そのためには使われている材料は本物でなければいけない。ということは、崩れた石垣の石をもとに戻さなければいけない。そこで、簡単に片づけられない。ただ、梅雨で雨が降るし、何回も余震がありほっておくとさらに崩れていく恐れがあるので、それを防ぐ措置をとらなければいけない。石をかたずけるときに番号を打っておいて、区連れる前の写真と見比べながら積みなおしていくので、時間がかかるのです。石自体が傷んで元に戻すと強度が保てないときには、同じ種類の石を持ってきて同じような形に加工し使用する。ただ、すべてそうした方法で修理するのかどうか、その辺はどういう方針なのかがありますが、文化財保護法で重要文化財に指定しているものに関しては原則としてそうするというのが一般的です。

天守閣は屋根瓦がづり落ちて、しゃちほこが崩れ落ちた痛ましい写真が報道されていましたね。

熊本城の天守閣は、幕末から明治維新の際には、そのまま残ったのですが、西南の役、西郷隆盛の乱のときに、内部に政府軍が籠城し、武者返しと呼ばれる石垣の上部が垂直に立ち上がったような石垣を西郷軍が攻めあぐねたことで有名です。ところが、原因は不明とされていますが、その時の火災で焼け落ちてしまいました。それを、1960年(昭和35年)にコンクリートで復元落成したものです。今回の復興にあって広島大学の建築史の三浦正幸教授は、木造の天守に復元したほうがいいと提言されていましたが、別の報道ではコンクリートのままで4年がかりで復興させる方針を地元では固めたという報道もされています。4年がかりということになると2020年のオリンピックまでいということかもしれませんが、かなり観光を意識した復興計画ということでしょうか。
時間がかかっても、これを機に木造の天守にし工事の様子をある程度見ることができるようにして観光にいかすということも考えられないではと思いますが、時間がかかりすぎると地震からの復興の象徴にできないということにもなりますし、そこのところをどう考えるのか難しいところですね。

熊本市民の方々は、どう考えていらっしゃるでしょうか?

そうなのです。そこも重要なところです。専門家がどうすべきかを検討するにしても熊本城は熊本の象徴ですから市民がどう考えるのかというのも重要な点ですね。熊本城だけではなく、お城は城下町のシンボルであり、現実にその街の中心部にある場合も多く、まちづくりと大きくかかわってくるだけに市民がどのように考えるのかも重要です。その点で、今熊本城は地震災害からの復興ですが、名古屋でも名古屋城の天守をコンクリートづくりから木造化したいという方針を河村たかし市長が打ち出し今市議会で議論を呼んでいる最中です。

名古屋城は金のしゃちほこで有名ですが、幕末、明治維新もなにもなく天守はそのままでした。ところが、第二次世界大戦末期の昭和20年5月14日の名古屋空襲により、本丸御殿、大天守、小天守、東北隅櫓、正門、金鯱などが焼夷弾の直撃を受けて焼失し、天守は昭和34年に鉄筋コンクリートで復元されました。その後、天守の近くに本丸御殿を木造で復元していて、すでに一部が公開されいています。急いで木造化しなくてもいいのではというシンポジウムがこの度あり、このシンポジウムに出かけて名古屋城も見てきました。河村市長は、2020年のオリンピックに間に合うように木造化したいとの意向を表明していますが、熊本城が震災復興をめざしている折だけに名古屋城の木造化を急ぐべきではない。2020年に間に合わせるのは外国からの輸入材も使わなければいけないとゼネコンも表明しており時間的に無理で拙速に過ぎるなど反対意見が出されています。
名古屋市が市民2万人を対象にアンケート調査したところ、市長の意向通り2020年までの木造化に賛成は凡そ20パーセントでしたが、時間がかかっても木造化がいいという意見が40パーセントほどあり、名古屋市では合わせると60パーセントの市民が木造化を望んでいるとして設計費の予算を6月議会に提案し、6月議会でどうなるか注目されています。シンポジウムで参加者の中から、今の天守を復興する際に1億円の寄付の目標を倍の2億円も集まり、いわば今のコンクリートの天守は名古屋の戦後復興の象徴であり、平和への願いがこもっているので壊さなくてもいい。先に一般住民の震災対策を優先すべきとの意見が出て納得させられるものがありました。

お城をめぐって他にも議論を呼んでいるケースはありますか?

東京でも、江戸城の天守を木造で復元すべきだとして、それをめざすNPOまであります。江戸城の復元も2020年のオリンピックまでにということで、国会で議論までされています。ただ、私はこの江戸城の天守の復元には消極的で賛成しかねています。というのは、江戸城の天守は明暦3年(1657年)に明暦の大火で全焼していて、復元をめざして天守台を築いたのですが、関ヶ原の戦いから50年以上もたっており平和な世の中にっていたのと経済的な負担も考えると必要ないということで再建されませんでした。徳川300年の初期に早くもなくなっているわけですから江戸時代の人々も天守を見た人は多くありません。歴史的建造物は歴史の資料でありますが市民が愛着を持っているからこそ大切にしなければいけないのであって、そもそも復元の対象にならないのではないかと思います。江戸の町を描いた絵図にも江戸城の天守が描かれていましたが、次第に天守は描かれなくなり、手前に隅田川、中心に江戸城、遠くに富士山という構図が定着しますが、江戸城の天守は描かれていません。『江戸城が消えていく 『江戸名所図会』の到達点』という本が著されているほどで、帯には「武士の都から町人の街へ」と書かれています。

そうした目で尾道城、尾道駅から千光寺山を見上げると目につきますが、尾道城とは何かということになりますが、港町尾道の歴史を裏切るもので、まさにフェイクです。できたら、撤去してもらいたいといつも気になります。尾道は、日本遺産「尾道水道が育んだ中世以来の箱庭的都市」ですから。

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