【解説】世界遺産、世界記憶遺産

mourikazuo.jpg  ニュース解説 ジャーナリスト 毛利和雄

1948年生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業。NHK入局後、奈良、大阪局を経て、歴史遺産、景観、まちづくりを担当のNHK解説委員をつとめた。NHK退局後、鞆の浦に在住。これまでの経験を活かし、歴史や文化資産を活かしたまちづくりについて広く伝えている。ラジオ出演や講演活動も多い。

鞆の架橋問題決着と長崎教会群の世界遺産推薦取り下げについて、ジャーナリストの毛利和雄さんにうかがいました。(2月15日 月曜日に放送の内容を再構成したものです。)

 

毛利さん、鞆といえば懸案になっていた埋め立て架橋の問題ですが、広島高等裁判所で決着したそうですね。

鞆の埋め立て架橋問題については、先月このコーナーで近く決着するのではないかと申し上げましたが、きょう決着するということになりましたので傍聴に行ってきました。
この訴訟は、埋め立て架橋に反対している住民の訴えを認めて広島地方裁判所が埋め立て免許差し止めの判決を出したのを不服として広島県が広島高等裁判所に控訴していたものです。
その後、広島県の湯崎知事は、広島地裁の判決を受けて埋め立て架橋工事の計画を取りやめることを決めましたが、訴訟取り下げについては、埋め立て推進派の住民が架橋取りやめに理解を示すことが必要だとしてきました。
その後、広島県は電線の地中化などの事業に着手し、防災対策として高潮防止の防潮堤の計画を打ち出しました。高潮防止対策については一部の地域で住民の反対が続いており、遺産保護の専門家集団イコモスから景観保護など遺産保護に関しての声明も出ていますが、町内会連合会や福山市の理解を得られたので推進するとして、埋め立て免許の取り下げに踏み切ることになりました。きょうから取り下げの手続きに入りました。
広島県が、埋め立て申請を取り下げますと、反対住民側の訴えも意味をなさなくなりますから、今日開かれた広島高等裁判所の公判廷で、広島県は埋め立て申請の取り下げを表明し、訴訟を起こした住民側は訴訟を取り下げることを表明して、訴訟は決着しました。
これで、計画が持ち上がって以来30年を超える埋め立て架橋計画は完全に取りやめられることになりました。いったん動き出そうとした公共事業が取りやめられることは極めて珍しいだけに注目を集めています。
もっとも広島県が打ち出した災害対策としての防潮堤は背後に管理道路があり、あらたな道路計画ではないかとして反対もあり完全に決着したとは言えない面を残しています。
また、こうしたインフラとは別に、鞆にただ一つしかなかったスーパーマーケットが今月に入って閉店し、人口減少、高齢化が進む中で鞆の住民の生活に大きな影響が出てきています。そうした中、毎年恒例の鞆・町並ひな祭が20日から始まりますが、歴史民俗資料館や重要文化財大田家住宅ではすでに雛飾りが始まっていますので、ぜひお越しください。

鞆のお話は、またお伺いするとして、きょうは世界遺産のお話だそうですが?

今度、日本が推薦している世界遺産は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」で、今年の世界遺産委員会で審査される予定でしたが、事前審査するユネスコの諮問機関であるイコモスから問題があると指摘され、日本政府は推薦を取り下げて後日を期すことになりました。
世界遺産委員会は毎年、6月の終わりから7月の初めころ開かれ、5月の初めころにイコモスから世界遺産に登録するのがふさわしいかどうか勧告が出されることになっており、事前に内容は知らせないことになっていました。ところが、いきなり世界遺産委員会で審査しても十分審査することができないので事前にやり取りできるようにすべきだとの意向も強く、今年から事前にイコモスが推薦国に見解を示してやり取りできるように改められました。それに基づいて、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について不備があるので検討してはどうかと連絡がきたもので、検討するには時間がかかり間に合わないとして日本としては推薦を取り下げ、再推薦することになりました。

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」に不備があるというのは、どういう点なのですか?

日本には、戦国時代にキリスト教が伝来しますが、豊臣秀吉、江戸幕府が禁教策をとりキリスト教の信仰を弾圧します。幕末になって長崎に再びキリスト教が入ってきて大浦天主堂が作られますが、そこで神父が説教しているところに隠れキリシタンが訪ねてきて信仰を告白し、キリスト教が復活します。
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、この伝来、弾圧、復活の3段階に関連する14の資産で構成され、「16世紀以来の東西交流と、この交流の中で生まれた文化的伝統を物語る顕著な物証」であるとしています。
具体的には、島原の乱の舞台となった原城跡や平戸、天草、五島列島で禁教時代から維持されてきた集落、それにキリスト教が復活した後に建てられた教会群から構成されています。
こうした推薦に対して、イコモスの指摘「中間報告」は、顕著で普遍的な価値が潜在的にあることは認めていますが、「復活期の八つの教会群が全体の価値にどう貢献しているのかが分からない」、「三つの時代につながりが描き切れていない」などと指摘し、日本の特色は、禁教や迫害の歴史の中で信仰をまもってきたことにあるとして、禁教の時代に焦点を当てた形に改めるべきだとしています。

イコモスから今度のような厳しい指摘が出されると事前に予測されていたのですか?

いえ。なんとかなるのではないかという見方が漠然とあったのだと思います。
キリスト教の伝播と弾圧の時代を経て復活というストーリーが、キリスト教世界であるヨーロッパの人々には受け入れられるのではないかという予測でしたが、それは思い込みにすぎなかったといえるかもしれません。五島列島の離島に建てられた教会は規模は小さく、それは250年にわたった禁教の下でのひそやかな信仰を継承しているからで、ヨーロッパで世界遺産に登録されている教会と比べると足元にも及びませんが、それこそこの地域に伝えられたキリスト教の特徴だと思いますが、理解してもらえなかったということでしょうか。

いったん取り下げたら、そのあとはどうなるのですか?
構成資産の変更も含め再検討したうえで、再推薦ということですから、イコモスから登録延期という勧告が出て世界遺産委員会で同じ決議がされたのと事実上同じような形になりました。登録延期は十分な価値の証明がなされていないので、推薦書の内容を検討したうえで再推薦するというものです。
来年は、福岡県の聖なる島沖ノ島の登録の可否が審査されますし、その次の年は自然遺産の奄美・沖縄も推薦をめざしていますので、2,3年は遅れることになります。
平泉のように、世界遺産委員会でいったん登録延期になり、推薦書の内容を再検討し、構成資産の一部をはずして再推薦し、登録が認められた例があります。
イコモスは、推薦書の再検討に当たって専門家がアドバイスするとの意向を示しているとも報道されており、今後の展開がどうなるのか注目されます。
鞆にしましても長崎周辺のキリスト教会にしましても、地域社会を維持していかなければ歴史遺産を保護できないので、いかに地域の人々が故郷に誇りを持って地域を活性化できるか共通の課題を持っています。

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